【12巻1号】2004

植生史研究 第12巻第1号(2004年5月発行)

[巻頭写真]
東北大学川渡農場における木材伐採実験
工藤雄一郎, PDF

[原著]
Rhus verniciflua Stokes grew in Japan since the Early Jomon Period
Shuichi Noshiro and Mitsuo Suzuki, p3-11, PDF

In Japan lacquer made of the latex of Rhus verniciflua was used since 9000 cal B.P. of the Earliest Jomon Period. Since this period many examples of lacquer ware and remains of lacquer processing have been found throughout Japan. However, there was no botanical evidence that Rhus verniciflua trees grew in Japan. Recently, fossil woods of R. verniciflua were reported at several sites. Rhus fossils have been identified into several species groups based on qualitative features, but the distinction between R. trichocarpa and R. verniciflua was not studied critically. By comparing mature woods of these two species and studying ontogenetic trends in R. verniciflua, we found that the wood of R. verniciflua tends to be semi-ring-porous with larger vessels and wider rays up to 4 cells wide, while that of R. trichocarpa tends to be ring-porous. Re-identification of Rhus fossil woods so far reported based on these features showed that R. verniciflua grew in middle to northern Honshu since the Early Jomon Period. Wood of R. verniciflua was used as stakes, boards, or bowls, and this tree seemed to have been planted close to settlements for lacquer collection and timber usage since that period.

[解説]
特集「クリ林研究」への招待
鈴木三男, PDF

[原著]
縄文時代の木材利用に関する実験考古学的研究 -東北大学川渡農場伐採実験-
工藤雄一郎, p15-28, PDF

樹木伐採・木材加工技術・森林資源再生など縄文時代の木材利用に関する多角的問題の解明を目的とし,2001年及び2002年に実施した実験考古学的調査 である川渡農場伐採実験の成果を中心に,縄文時代の磨製石斧の効力の問題について検討した。先史時代の遺跡出土資料をもとに復元した伐採用具を使用したこ の広葉樹二次林の皆伐実験では,これまで磨製石斧によって計178本,鉄斧によって計22本の実験データを得ている。この結果,伐採の対象とする樹種に よって伐採作業の効率に明確な違いがあることが判明した。そこで伐採に要したストローク数と樹幹断面積を基準として樹種別にこれを対比し,クリの伐採がコ ナラやサクラ属,カエデ属の樹木と比較して相対的に容易であることを示した。このような樹種による伐採効率の差異は,樹木の生長速度や年輪の形成の仕方, 強度などの違いが顕在化したものと推定した。また,鉄斧と磨製石斧のデータを比較し,木材の断面積と伐採に要したストローク数に基いて両者の効力を対比し た結果,直径30 cmの樹木で約3.9倍の格差があることを示した。縄文時代の木材利用を解明する上で,樹種の選択性とも関係する伐採具としての磨製石斧の効力を,実験に より明確化することは非常に有効であると考えられる。

使用実験による縄文時代磨製石斧の使用痕 -クリと広葉樹雑木を対象として-
三山らさ, p29-36, PDF

縄文時代の木材加工用具である磨製石斧については,これまで生産地遺跡での製作技法や流通の問題などが扱われてきたが,石斧がどのように使われ,どのよう に管理され,生活のなかでどのくらいの数が必要だったのかということを明らかにするような研究はおこなわれてこなかった。2001年には,2000年から おこなっている使用実験に引き続き,クリ材を対象として膝柄磨製石斧の耐久性を調べ,その破損のメカニズムを解明することを柱に実験をおこなった。この年 には特に,膝柄と直柄の石斧で作業をした場合に生じた使用痕の比較と,クリ材を加工した場合と広葉樹の雑木林を伐採した場合に生じる使用痕の比較に重点を 置いて観察をおこなった。その結果,台部と握り部の角度が鋭角である膝柄の場合には,刃部の後角部分に損耗が集中するという特徴があげられるのに対し,直 柄に装着して使用した磨製石斧では使用痕は後角から前角までに偏りなく見られることが明らかになった。また,中央から前角にかけての部分が集中的に使われ ている直柄資料も観察された。材の違いによる磨製石斧の損傷については,広葉樹雑木林の伐採に使用した磨製石斧には,クリ伐採時よりも全体としてすすんだ 刃部の損耗が観察され,石斧で木を伐採する際には木材の強度が磨製石斧の使用痕の形成に影響を与えている可能性が指摘された。

東京都下宅部遺跡の水場遺構材から復元する縄文時代後期の森林資源利用
佐々木由香・能城修一, p37-46, PDF

縄文時代のクリの利用実態を明らかにするためには,遺跡単位の分析に基づいて,食料としての面だけでなく,木材の利用状況を具体的に解明し,総合的な解釈 を行う必要がある。本稿では縄文時代後期の東京都下宅部遺跡の第7号水場遺構を対象として,遺構を構成する横架材と杭材に関し,木取りなどの形態観察と樹 種同定を併用することによって,森林資源利用の様相を検討した。樹種同定の結果,大形の横架材13本にはクヌギ節1本をのぞいてクリが使われ,杭材225 本にはクリが約60%と多用され,他にイヌエンジュなど計21分類群の材が使われていた。樹種ごとに杭材の木取りや原材の径をみると,クリとクヌギ節は割 材が多く,原木を復元すると直径10-20 cmの材が多い。それに対して,イヌエンジュやその他の樹種は径10 cm以下の細い丸木材が主体で,樹種によって木取りと原材の径は異なっていた。この結果,クリやクヌギ節は用途に適した太さに割る材として利用されてい た。クリは利用量と加工方法から選択的に多用されたことが明らかになり,その原因は,伐採効率のよさや割り裂きやすさを含めた材の性質に加え,周辺空間に おける木材資源量とも関連をもつと考えられた。本稿で検討した木材利用の傾向から,下宅部遺跡においては,縄文時代後期においてクリの選択的な木材利用が 認められ,それに食料資源としてのトチノキやクルミの利用が加わって多角的な植物利用を行っていたことが推定された。

[解説]
クリのSSRマーカー
山本俊哉, PDF

古代の仏像の樹種はカヤであるのか??を再度問う
鈴木三男, PDF

[書評]
河栂渡一新石器時代遣址考古発掘報告
鈴木三男, PDF

弥生・古墳時代, 木・繊維製品
鈴木三男, PDF

第四紀学
紀藤典夫, PDF

[事務局報告]
PDF