植生史研究 第17巻第1号(2009年04月発行)
[巻頭写真]
福島県猪苗代湖南部の鬼沼における完新世後期の埋没林
箱﨑真隆・吉田明弘・木村勝彦, PDF
[原著]
福島県鬼沼における木材化石と花粉化石からみた完新世後期の時空間的な植生分布とサワラ・アスナロ湿地林
箱﨑真隆・吉田明弘・木村勝彦, p3-12, PDF
この地域周辺の約2500年前以降の時空間的な植生分布について考察した。約2500年前の扇状地では,ハンノキ属ハンノキ節が優占し,カツラやトネリコ 属,サワグルミが伴う湿地林であった。周辺の山地では,コナラ属の森林が広がっていた。約1500年前には,トネリコ属が扇状地で,ブナ属が周辺山地で増 加した。その後,約1500~800年前の間には,ハンノキ節に加え,サワラ・アスナロの針葉樹が混交する湿地林が扇状地に形成された。これらの木材化石 の産出分布から,サワラは湿潤から乾燥した環境に,アスナロは湿潤な環境のみに立地していたことが明らかとなった。サワラは,木材化石の年輪数と根系形態 から,少なくとも200年間に渡って不安定な泥炭地上に生育していた。したがって,サワラ・アスナロはこの地域における湿地林の重要な構成種であり,西日 本の低湿地埋没林で報告されるスギと同様に,湿地林の生態に新知見を得ることができた。また,花粉組成と木材化石の産出の比較から,東北地方南部ではスギ が山地帯の植生要素であった可能性が高い。
栃木県小山市寺野東遺跡から出土した縄文時代後・晩期の木組遺構の高精度年代測定
工藤雄一郎・小林謙一・江原英・中村俊夫, p13-25, PDF
寺野東遺跡からは合計で15基と多数の木組遺構が谷部から検出されており,これらは関東平野における縄文時代後・晩期の低地遺跡研究,特に当時の低地利 用,水利用,木材利用,植物質食料の利用を明らかにする上で,極めて重要な遺構群である。そこで,谷部から出土した木組遺構の年代的位置づけを明確化する ことを目的として,各遺構を構成する木材について,加速器質量分析計(AMS)による14C年代測定を行った。また,より高精度に年代を決定することを試 みるため,そのうちの1点の木材については,複数の試料を採取して,ウイグルマッチングによる年代決定を行った。その結果,これらの遺構は年代的に4つの グループに分けられた。SX-077が4500-4200 cal BP前後(縄文時代後期初頭-前葉),SX-074とSX-046が3600-3300 cal BP前後(縄文時代後期後葉-末葉),SX-075・SX-041・SX-048が3300-2900 cal BP前後(縄文時代晩期前葉-中葉),SX-043が2900-2700 cal BP頃(縄文時代晩期中葉)となり,共伴土器によって推定されていた所属時期を裏付けるとともに,これをさらに絞り込むことができた。SX-048の構成 材のウイグルマッチングの結果から,SX-048が3100 cal BPか3075 cal BPよりも,やや新しい時期に構築された可能性が高く,縄文時代晩期前葉の大洞BC式期(安行3b式期)頃であると推定された。大径材を用いて大規模な木 組遺構を構築しているのが寺野東遺跡の縄文時代晩期の低地利用の特徴であるが,これは,特に関東平野の縄文時代晩期前葉の低地利用の特徴的な様相であるこ とを再確認した。
[短報]
千葉県沖ノ島遺跡から出土した縄文時代早期のアサ果実の14C年代
工藤雄一郎・小林真生子・百原新・能城修一・中村俊夫・沖津進・柳澤清一・岡本東三, p27-31, PDF
Abstract Fruits of Cannabis sativa were found from the sediments of the earliest Jomon period at the Okinoshima site, Tateyama City, Chiba Prefecture, central Japan. The authors conducted AMS 14C dating of the Cannabis sativa fruits themselves. The obtained date was 8955 ± 45 14C BP, and the calibrated date is ca. 10,000 cal BP. Thus the fruits of Cannabis sativa excavated from the Okinoshima site can be certainly placed at the Yoriitomon pottery phase of the earliest Jomon period, which coincides with the early Holocene. It is the oldest record of the fruits of Cannabis sativa in the world at this moment. Hemp may have been cultivated and utilized from the earliest Jomon period.
フィリピン,中部ルソン地域の丘陵地における草本植物の植物珪酸体の形態的特徴
吉田真弥・森島済・渡邊眞紀子・Armand M. Palijon, p33-36, PDF
Morphological characteristics of silica body (opal phytolith) derived from Imperata cylindrica (cogon), Saccharum spontaneum (talahib), and Themeda triandra (samon) were described on a hill in central Luzon, Philippines. Discriminant analysis using silica body morphology indicates that the three species can be identified by morphometries of motor and short cells.
[解説]
寺野東遺跡から出土した木組遺構SX-048
江原英・工藤雄一郎, PDF
[雑録]
報告 -第26回日本植生史学会談話会
吉田明弘, PDF
[事務局報告]
PDF