【27巻2号】2018

植生史研究 第27巻第2号(2018年11月発行)

[巻頭写真]
日本植生学会の創立に貢献した人々 PDF
辻 誠一郎

[趣旨説明]
日本植生史学会創立30周年記念シンポジウム:植生史研究のこれまでとこれから趣旨説明 PDF 辻誠一郎, p55-58

[総説]
花粉分析による植生史研究と今後の課題 PDF
高原 光, p59-66

花粉分析は,100 年間にわたって,様々な学問分野で利用されてきた。花粉の飛散や生産量などの花粉分析に関する基礎的な研究も進められ,堆積物中の花粉組成が,どのような植生の空間分布を示しているかについて,研究が進んでいる。走査電子顕微鏡による花粉形態の研究が進展し,種レベルでの花粉同定が可能な分類群も明らかになってきた。また,堆積物の掘削技術,年代測定学,分子生物学,コンピュータなど,他の分野の技術革新が,花粉分析を用いた研究の可能性をさらに広げている。

[総説]
大型植物化石による植生史研究の成果と課題 PDF
百原 新, p67-74

本総説は,日本植生史学会が発足した1986 年当時に議論された第四紀の大型植物化石に関連した話題の,その後の展開を解説する。最初に,日本の大型植物化石に基づく植生史研究が何を目指して始まったかを再確認するために,三木 茂による第四紀の植物化石の先駆的な研究事例を紹介する。次に,1)標本の保管・整理,2)データベース,3)種の同定,4)化石群集のタフォノミーといった,植生史研究を行う上での基礎的な問題の現状を解説する。

[総説]
日本列島におけるこの35 年間の木材遺体研究の展開と展望 PDF
能城修一, p75-86

鉱化していない木材遺体の研究は日本ではほぼ100 年前に始まった。その後の研究の経過を1980 年以前と1980 年以降に分けて概観し,1980 年以前における研究の意義は,基本的に木材遺体の樹種を同定して,その分類群を明らかにする点にあったと指摘した。これに対し,大規模な低湿地遺跡が発掘されるようになった1980 年以降の研究の意義は,木製品類だけでなく自然木も大量に扱うことによって,自然環境の変遷や背景の森林資源を考慮して樹種選択や木材資源利用を解明した点にあると指摘した。ついでウルシとイチイガシを取りあげて,1980 年代以降に行われた日本産樹木の木材組織の研究を背景として,2000 年以降に両種が木材構造から識別できるようになった過程を記述した。そして,両種の同定によって解明されつつある先史時代の木材資源利用の側面を,具体的な研究例にもとづいて紹介した。木材遺体に関する研究のこうした発展の背景には,近年充実してきた日本産木材標本の収集と,日本産木材標本および識別データベースのWeb 上での公開,遺跡出土木材データベースと元データを含むCD-ROMの出版といった基礎情報の公開がある。そうした情報の公開が,種の識別や,研究の現状と問題点の把握といったことに具体的にどう貢献しているのかを例をあげて記述する。最後に現状における木材遺体研究のデータを総覧して,研究の問題点を指摘して将来にむけての研究の展望について議論する。

[解説]
日本植生史学会30年史 PDF 辻誠一郎, p87-92