【22巻2号】2014

植生史研究 第22巻第2号(2014年2月発行)

[巻頭写真]
利尻岳における森林植生の垂直分布
吉田圭一郎 PDF

弥生〜古墳時代集落における森林資源の管理と利用
樋上昇, p47-56 PDF

本稿では弥生時代から古墳時代にかけて,長期間木製品生産をしていた遺跡において,どのように森林資源を管理しつつ利用していたのかを考察した。まず,森林資源のある丘陵付近で小規模な集落を点在させることにより環境に負荷を与えない集落群の存在を確認した。次に,大規模な木材伐採によって集落の移動を余儀なくされた例が存在することを確認した。そのうち一例は,集落そのものを木材資源のある,より標高の高い位置へと移すパターン,もう一例は,森林資源のある台地に沿って,一定期間ごとに集落を移動し,10〜30 年でまた元の位置に戻ってくるものである。そして後者は,近世における木地師の移動パターンにきわめて近いことを確認した。弥生時代後期以降,人口増加と開墾により,特に近畿地方では森林資源の枯渇が著しくなり,木製品生産の場はより山奥へと移動していった。いわゆる「高地性集落」も,こういった木材伐採と加工のための小規模な集落であった可能性があり,これが後の時代の「杣」へとつながっていった。最後に,近畿地方や東海地方の沖積低地にある巨大集落では,かなり早い段階で,人為的に「雑木林」を造りだし,ここで日常材を獲得することによって集落を長期間維持することができたと考えた。

大阪湾北岸の縄文時代早期および中〜晩期の森林植生とイチイガシの出現時期
能城修一・南木睦彦・鈴木三男・千種浩・丸山潔, p57-67 PDF

イチイガシは弥生時代以降に鋤鍬の素材として多用されたが,それ以前では貯蔵穴などから果実が出土するだけで,この種がいつ頃からどのような森林の中に生育していたのかは不明であった。大阪湾の北岸に位置する兵庫県神戸市垂水区の垂水・日向遺跡から出土した木材化石と大型植物化石はイチイガシを含んでおり,それを用いて縄文時代早期と中~晩期の森林を復元し,イチイガシの位置づけを検討した。解析の結果,鬼界アカホヤ火山灰(K-Ah)の降灰前には,ムクノキとケヤキ,イヌシデを主体としてモミとカヤをまじえる落葉広葉樹林が存在したのに対し,降灰後には,イチイガシを含むアカガシ亜属とクスノキを主体として,多様な針葉樹や広葉樹をまじえた照葉樹林が成立した。この森林組成の変遷は,降灰前にはコナラ亜属が少なくてカヤが多く,降灰後にはクスノキやモミ,ケヤキが多いといった違いはあるものの,大阪湾周辺で行われた花粉分析の結果と整合的であった。K-Ahの降灰後に成立した照葉樹林は,構成種の優占度では,自然状態の宮崎県の照葉樹林とは異なっていたが,種組成では共通性が高く,その他に撹乱の大きい開けた立地に生育する種を含んでいた。瀬戸内海周辺で出土している大型植物化石を合わせて考えると,イチイガシを伴った照葉樹林は,K-Ah降灰後の縄文時代前期頃には沿岸部に広がったと考えられる。

[雑録]
遠藤英子: 報告―The 16th Conference of the International Work Group for Palaeoethnobotany に参加して PDF
酒井 慈: 報告̶第36回日本植生史学会談話会 PDF
河合貴則: 報告―第36回日本植生史学会談話会 PDF