植生史研究 第16巻第1号(2008年4月発行)
[巻頭写真]
縄文時代早期の千葉県館山市沖ノ島遺跡
小林真生子・百原新・柳澤清一・岡本東三, PDF
[原著]
島根県西部益田平野における過去6400年間の環境変遷
渡辺正巳・石賀裕明, p3-10, PDF
島根県西部益田平野において,ジオスライサーを用いて得た6400 yr BPころ以降に堆積した試料を対象に,花粉分析と,イオウ濃度分析,AMS 14C年代測定を行った。花粉分析結果を基に2局地花粉帯(MGS2-I,II帯)と5花粉亜帯(MGS2-IIa,IIb,IIc,IId,IIe亜 帯)を設定し,AMS 14C年代測定結果から堆積速度を求め,各花粉帯と花粉亜帯の境界年代を推定した。花粉分析の結果,6400 yr BPころの益田平野周辺にスギ林が分布していたことが明らかになった。このことは,スギ林が益田平野から中国山地西部へ拡大したことを示唆する。 6400-5300 yr BPには,アカガシ亜属花粉とイオウ濃度の増加傾向が一致した。これは海進を伴う気候の温暖化を示す。4660-3570 yr BPには「縄文中期の小海退」に対応する冷涼・湿潤な気候が認められた。1500 yr BP以降に認められるアカマツ林の拡大を,人間活動に伴う自然破壊によると考えた。同時に認められるスギ林の縮小は,人間活動に伴う現象と考えられるほ か,「奈良・平安・鎌倉温暖期」に伴う現象である可能性を指摘した。花粉帯の境界年代を基に,益田平野と山陰地方中央部の古植生と古気候を比較した。
千葉県沖ノ島遺跡から出土した縄文時代早期のアサ果実
小林真生子・百原新・沖津進・柳澤清一・岡本東三, p11-18, PDF
千葉県館山市の沖ノ島遺跡の縄文時代早期の地層から,アサCannabis sativaの果実が出土した。アサ属とカナムグラ属の果実は似ているため,アサとカラハナソウHumulus lupulus,カナムグラHumulus scandensの 果実の形態を記載し同定根拠を示した。カラハナソウ果実は側面観が円形で頂部はハート型もしくは円形に肥厚し,着点にくぼみはなく,大きさはアサよりも小 さい。カナムグラ果実は側面観が円形で,頂部はハート形に肥厚し着点にくぼみは見られなかった。沖ノ島遺跡から出土した果実と現生アサ果実は側面観が卵形 で着点がわずかに丸くくぼみ,果実先端には丸いこぶがあり,果実サイズも同じだった。そのため,出土果実をアサと同定した。これまでに,福井県にある鳥浜 貝塚の縄文時代草創期の堆積物からアサの繊維が見つかっているが,今回見つかったアサ果実は果実化石としては世界最古の産出記録である。鳥浜貝塚から見つ かった繊維は国外から持ち込まれた可能性があるが,アサ果実が見つかったことで,アサが縄文時代早期には日本で生育していたことが示唆された。沖ノ島遺跡 でアサが栽培利用されていた可能性が考えられる。
[短報]
平成19年新潟県中越沖地震後に出雲崎沖の海底に出現した古木の樹種組成とその成因に関する推察
中田誠・細尾佳宏・立石雅昭・宮下純夫, p19-24, PDF
A large number of ancient wood pieces appeared at the sea bottom just after the Niigataken Chuetsu-oki earthquake in 2007, off the town of Izumozaki, in Niigata Prefecture, Japan. Most of the wood pieces were formed at 7000–2000 cal BP. Half of the wood pieces had their edges well-ground, probably by water and sand. Among 54 wood samples, fourteen taxa, mostly of deciduous broad-leaved trees, were identified by observing microscopic characters. The identified taxa were thought to have grown near water, such as in ravines, near rivers, and in wetlands, in the cool-temperate (or partly warm-temperate) zone. The relatively warm climate in the area during the middle to late Jomon periods implied that these trees grew in the upper to lower streams of rivers. These ancient wood pieces were thought to have resulted from repeated huge natural disasters.
岩手県御所野遺跡から産出した平安時代のナシ属炭化果実
辻圭子, p25-27, PDF
Carbonized fruits of Pyrus were discovered from a pit dwelling of the Heian period at the Goshono site in Iwate Prefecure. From their mophology they could possiblly be fruits of Pyrus usuriensis Maxim.
[事務局報告]
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