【32巻1号】2022

植生史研究 第32巻第1号(2022年12月発行)

[巻頭写真]
四川省北東部光霧山のタイワンブナとエングラーブナの優占林
百原 新
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[原著]
関東堆積盆地西部の葉化石群集から復元した前期更新世のブナ属優占林の構成種と分布状況
伊藤彩乃・百原 新・福嶋 徹・福嶋 泉,p. 3-14
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日本の温帯落葉広葉樹林の代表的な樹種で,日本固有の落葉高木であるブナFagus crenata,イヌブナF.japonicaの優占林の出現過程を明らかにするため,日本の鮮新・更新世のブナ属葉化石の形態と産出状況を検討した。東京都西部の狭山丘陵に分布する下部更新統狭山層から産出した約165 万年前の葉化石群集は,ブナ属の葉が全葉化石数の約40%と多数を占める。葉脈と葉縁の形態的特徴から判断するとブナ,イヌブナ,ムカシブナF. stuxbergiの3 種を含み,このうちブナの割合が高木性樹種の22.3%ともっとも高い。この葉化石群集は,ブナとイヌブナが優占する現在の日本のブナ林の存在を示す最も古い時代のものである。これらのブナ属の現在の分布から判断すると,関東堆積盆地周辺の山地では,低標高域にムカシブナやイヌブナが常緑広葉樹とともに分布し,それよりも高い標高域の落葉広葉樹林でブナがイヌブナとともに分布していたと推察された。

[原著]
別府湾堆積物の花粉および微粒炭分析に基づく後期完新世における照葉樹林の衰退過程
嶋田美咲・高原 光・加三千宣・池原 研・入野智久・山本正伸・山田圭太郎・竹村恵二,p.15-25
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別府湾最深部から採取され,ウイグルマッチング法による高精度年代モデルの構築された堆積物コア(BP09-6コア)の花粉分析と微粒炭分析結果に基づき,別府湾集水域における後期完新世の植生変遷を解明し,さらに九州北部の歴史資料を参照することで,植生に対する人間活動の影響を明らかにした。花粉分析にあたっては,光学顕微鏡下では識別困難なクリ属,シイ属,オニガシ属花粉について,走査電子顕微鏡を用いて,同定,計数を行った。BC600年からAD1200年(弥生時代から平安時代)には,コナラ属アカガシ亜属の樹木やツブラジイの優勢な照葉樹林が分布していた。微粒炭量の急増が示すAD1200年頃に起こった火事以降,照葉樹林は急激に衰退し,引き続き起こった火事や伐採,農耕などの人間活動の影響で,別府湾集水域では大半の森林が消失した。AD1200年から江戸時代前半のAD1750年頃までの期間に残った植生はマツ類,ナラ類,クリなどからなる二次林とイネ科,ヨモギ属,ワラビ属などの陽生草原であった。江戸時代後半のAD1750年頃以降,荒廃した立地に植林や天然の更新によりマツ林が増加し,その後さらに造林が行われスギ人工林が広がった。

[解説]
京都市片波川源流域におけるスギ巨木群からなる天然林
高原 光,p.26
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[短報]
千葉県下総台地南西部の村田川水系における最終氷期の古環境
工藤雄一郎・西野雅人・森 将志・中村賢太郎・能城修一,p.27-31
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