植生史研究 第22巻第1号(2013年4月発行)
[巻頭写真]
中米パナマで見た植生と生物多様性保全
鈴木三男, PDF
[原著]
仙台市富沢遺跡のモミ属花粉化石からのDNA増幅と種同定に関する試み
長谷川陽一・鈴木三男, p3-12, PDF
過去の植物の分布は,当時の堆積物に含まれる植物化石の分類群を形態形質を用いて同定することで明らかにされてきた。しかし,その分類群の同定は種子など の一部を除いて一般に属のレベルにとどまり,種のレベルで過去の植生を明らかにすることは難しかった。そこで本研究では,採集した花粉化石からPCR法を 用いてDNAを増幅し,その塩基配列を現生種のものと比較することで種の同定を試みた。仙台市富沢遺跡の約2万年前の堆積物から双眼実体顕微鏡を用いてマ ツ科モミ属・トウヒ属の花粉化石を識別して取り出し,採集した花粉化石から葉緑体DNAのtrnT-trnLとtrnW-trnPの2つの遺伝子間領域 (それぞれ160 bp, 158 bp)を増幅して,種の識別を試みた。その結果,採集した花粉化石61粒のうち,両遺伝子間領域で1粒ずつ計2粒の花粉化石からDNAの増幅が確認され た。DNAの塩基配列を決定したところ,共にモミ属のDNAであり,ひとつは現生のモミ属5種の塩基配列と少なくとも1塩基の違いで異なった。もうひとつ は現生のウラジロモミとシラビソの塩基配列と一致した。この結果,当時の仙台市には,現生モミ属樹種のうち少なくともウラジロモミまたはシラビソが生育し ていた可能性が示唆された。現在よりも寒冷な氷河期に,温かい南方に分布するこれらの樹種が北上して分布していたという意外な結果が得られた。
山形県高畠町高安窯跡群にみる古代窯業における燃料材選択と森林利用
小林克也・北野博司, p13-21, PDF
山形県高畠町に所在する高安窯跡群では,7世紀後半~8世紀初頭に操業されていた須恵器窯跡が5基と,9世紀後半~10世紀前半の炭窯跡が1基確認され, 出土燃料材と窯体構築材の樹種と復元直径,年輪数の分析を行なった。須恵器窯跡では,最も谷奥に位置し古相を示すC1号窯跡では復元直径10 cm以下のイヌシデ節やカエデ属などが多くみられ,群内で新相を示すB1・B2号窯跡では,復元直径10 cm以上のマツ属複維管束亜属が多くみられた。これは,一見すると窯業活動に起因するマツ属複維管束亜属の増大にみえたが,年輪数では,マツ属複維管束亜 属は樹齢を重ねているものが多く,古くから生育していた樹木であった。よって高安窯跡群では,燃料材として復元直径10 cm以内の広葉樹を伐採していたが,広葉樹がなくなると,丘陵尾根部などに生育する復元直径10 cm以上のマツ属複維管束亜属を伐採利用していたと推測される。そのため最後に操業が行われたB2号窯跡の操業終焉時には,燃料材に適した太さの樹木は無 くなり,燃料材の枯渇が須恵器窯跡終焉の契機となった可能性がある。炭窯跡では,コナラ属コナラ節のみを窯跡周辺の自然植生から伐採利用していた。復元直 径や年輪数の計測では,炭窯跡には利用木材に対して一種の規格のようなものがあった可能性があり,須恵器窯跡終焉から約200年後には,周辺植生から良質 の木材を選択できるほどに植生が回復し,炭窯跡の操業が行われていたと考えられる。
[短報]
クッタラ火山周辺域に分布する後期更新世テフラ–土壌累積層の植物珪酸体記録─ササの地史的動態に注目して─
佐瀬隆・山縣耕太郎・細野衛・木村準, p23-28, PDF
We carried out a phytolith analysis of the Late Pleistocene tephra-soil sequence containing burned erect trunks, the so-called “Noboribetu Petrified Forest”, around the Kuttara volcano located in the southwestern part of Hokkaido to assess the existence of the Sasa group (dwarf bamboo). Sasa phytoliths disappeared from soils directly overlying the Kuttara-5 tephra deposit (Kt-5) in the middle Marine Isotope Stage (MIS) 5a. This suggests that the disappearance of Sasa from the floral community around the Kuttara volcano occurred from the late part of MIS 5a. The “Noboribetu Petrified Forest” was embedded in three tephra deposits derived from the Kuttara volcano, Kuttara-1 (Kt-1), Kuttara-3 (Kt-3), and Kuttara-4 (Kt-4), between the later part of MIS 5a and the early part of MIS 3. Thus, the result shows that the “Noboribetu Petrified Forest” was a coniferous forest without Sasa.
[雑録]
那須浩郎・能城修一: 種実と木材の識別データベース, PDF
嶋田美咲・渡辺彩花: 報告 -第35回日本植生史学会談話会, PDF
西内李佳: 報告 -第35回日本植生史学会談話会, PDF