植生史研究 第33巻第1号(2025年6月発行)
[巻頭写真]
山口県秋吉台の二次林と薪炭利用
渡邉稜也・江口誠一・藏本隆博,p. 1-2
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[原著]
新潟県苗場山小松原湿原群のボーリングコア試料の植物化石からみた亜高山帯針葉樹林の発達過程
吉田明弘・百原 新・木村南月・帥 帆嘉・工藤雄一郎・大山幹成・佐々木明彦・谷口康浩,p. 3-18
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本研究は,新潟県苗場山小松原湿原群の下ノ代(標高1330 m)と上ノ代(標高1570 m)で採取したボーリングコア試料においてテフラ分析と14C 年代測定に基づき堆積物の詳細な年代軸を構築した。また,花粉分析と大型植物化石分析,木材化石の同定から完新世における両湿原の植生変遷を解明するとともに,苗場山における亜高山帯針葉樹林の発達過程と拡大要因を検討した。8000 年前以前の下ノ代ではカバノキ属とマツ科針葉樹の混交林,8000–1200 年前にはブナ林が分布し,1200 年前以降には湿原縁辺にオオシラビソ林が分布を開始した。7300–6100年前の上ノ代では偽高山帯のような低木・草本植生が広がり,6100–640 年前にはブナとダケカンバの落葉広葉樹林が分布し,2100 年前以降にはオオシラビソ林が拡大した。苗場山のオオシラビソは2100 年前以前には標高1600 m付近に生育し,その後この標高帯を中心にして高標高域と低標高域へ拡大した。オオシラビソ林の拡大には高標高域では土壌形成,低標高域では湿性環境が大きく影響していた可能性が高い。
[原著]
山口県秋吉台の真名ヶ岳ドリーネにおける植物珪酸体と微粒炭分析からみた植生景観の変遷
渡邉稜也・江口誠一・藏本隆博,p. 19-29
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国内におけるイネ科草本を中心とした半自然草地の植生変遷は植物珪酸体分析や微粒炭分析により明らかにされてきたが,古代以降の年代値が得られている研究例は少なく,歴史時代における詳しい植生と人間の関係は明らかでない。本研究では伝統的な土地利用及び草地利用の状況についての研究例が豊富である山口県秋吉台においてドリーネ堆積物の植物珪酸体分析および微粒炭分析を行い,過去の植生景観を撹乱との関係を含めて復原した。試料は台地北東部の真名ヶ岳ドリーネ内の2 地点で採取し,堆積物中の炭化材や植物片の放射性炭素年代測定により年代を与えた。植物珪酸体分析では7 世紀半ば以降にススキ属型やネザサ節型など草地構成種の産出量が増加し,周辺で草地景観が拡大したことが示された。この変化には微粒炭量の増加も伴うことと周辺地域における遺跡の分布から,人為的作用と火による植生撹乱が影響したとみられた。植物珪酸体の組成から対象地区は台地中央部よりもネザサ節が優勢な植生であったことが示唆された。ネザサ草地はススキが優占する草地よりも低頻度の火入れ下で成立することが知られるほか,クスノキ科型を含む樹木起源の珪酸体の出現傾向から対象ドリーネに隣接した台地縁辺斜面部に森林が存続していたと考えられた。これらの結果より,対象地区は森林への延焼を防ぐ面で重要な位置にあり,主に刈り取りによりネザサが優勢な草地景観が維持されたと推察された。
[雑録]
報告-第52 回日本植生史学会談話会
佐藤駿輝,p.30-32
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[事務局報告] p.33-39
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