【29巻2号】2021

植生史研究 第29巻第2号(2021年4月発行)

[巻頭写真]
北海道東部西別湿原のヤチカンバ
鈴木三男
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[原著]
ヤチカンバ花粉の識別と北海道東部の西別湿原における 6500 年前以降の植生史
吉川昌伸・鈴木三男・佐藤雅俊・小林和貴・長谷川 健・吉川純子・戸田博史, p.37-52
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ヤチカンバは東シベリアから中国東北部,北朝鮮に分布するカバノキ属の低木種で,北海道の 2 箇所の自生地は分布域の南限のひとつに当たり,氷河期の遺存種とされている。自生地の一つ,別海町西別湿原にヤチカンバがいつから生育していたのかを明らかにするため,1)北海道に自生するカバノキ属 5 種の花粉形態を詳細に検討して,ヤチカンバの花粉を他の種から区別できる形質を探索し,2)その形質を用いて,堆積物中のカバノキ属花粉にヤチカンバ花粉が含まれるかどうかを経時的に調べた。カバノキ属 5 種の花粉の赤道長(E),外孔長(EP),孔深度(PD)を測定し,赤道長 / 外孔長比(E/EP)と赤道長 / 孔深度比(E/PD)を求めた結果,ヤチカンバには E/EP 比と E/PD比が他のカバノキ属よりも大きな値になる花粉が存在することが明らかになった。西別湿原でハンドボーリングにより堆積物を採取し,テフラ分析および堆積物の 14C 年代測定を行った結果,堆積物は 6500 cal BP から現在までのものであることがわかった。各層準の堆積物にはカバノキ属花粉が 4–34%含まれており,このうちの 7–50%がヤチカンバ以外のカバノキ属よりも E/EP 比の大きな花粉であることが明らかとなった。以上の結果から,西別湿原には 6500 calBP 以降,現在までヤチカンバが継続して生育していた可能性が高いと考えられた。

[原著]
Diversity of temperate flora at the Tado site, central Japan, during the last glacial stage, reconstructed from the Dr. Shigeru Miki collection
Arata Momohara, Yuichiro Kudo, Nao Miyake,Toshio Nakamura, Fuyuki Tokanai, and Minoru Tsukagoshi
p.53-68
(三木茂博士採集の三重県多度産標本から復元した最終氷期の温帯性フロラの多様性
百原 新・工藤雄一郎・三宅 尚・中村俊夫・門叶冬樹・塚腰 実)
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本論文では三木茂博士が三重県桑名市多度で採取し,大阪市立自然史博物館に保管されている大型植物化石標本を再検討し,形態を記載した。標本の放射性炭素年代測定を実施し,MIS 3 に相当する 40,300–39,070 calBP と最終氷期最寒冷期後半の 21,920–20,270 cal BP の 2 つの時代に形成された植物化石群に由来することが明らかになった。最終氷期最寒冷期の化石群はツガ,トウヒ属バラモミ節,カラマツ,ヒノキといった温帯性針葉樹が優占し,カツラ,サワグルミ,イヌブナ,アサダなどの温帯性広葉樹の多様性が高かった。ツガ属球果と同定された化石標本に付着した堆積物の花粉分析結果は,多度川沿いに発達した針広混交林の周囲に温帯性針葉樹林が広がっていたことを示していた。亜高山針葉樹林は付近の山地帯に分布しており,針広混交林とは隣接していたと考えられる。多度周辺の地域は最終氷期最寒冷期には太平洋と日本海の中間の内陸に位置していたが,その温帯性落葉広葉樹を含む植生はマツ科針葉樹が優占していた当時の中部日本での温帯性樹木のレフュージアだったと考えられる。博物館標本の再検討は最終氷期の古植生分布を復元する上で重要である。

[短報]
長崎県伊木力遺跡から出土したモモ核の放射性炭素年代
工藤雄一郎・水ノ江和同・百原 新・野澤哲朗・門叶冬樹, p.69-73
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[雑録]
遺跡見学会における自然史・植生史研究の展示
鈴木伸哉・齋藤 葵, p.74-75
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