植生史研究 第23巻第2号(2015年2月発行)
[巻頭写真]
ミャンマーのナマタン国立公園の植物 PDF
[総説]
縄文時代のダイズの栽培化と種子の形態分化 PDF
中山誠二, p33-42
本稿では,レプリカ法によって確認された縄文時代のダイズ属種子圧痕を集成し,比較することによって,それらの大きさや形態の時間的変化を明らかにした。その結果,中部日本において縄文時代早期中葉(紀元前8千年紀後半)から存在するダイズ属の種子が,縄文時代を通じて大型化し,特に紀元前4千年紀後半の縄文時代中期以降,栽培型ダイズの種子が顕在化することが明らかとなった。この現象は,植物の栽培化に伴う一つの特徴である種子の大型化現象を示している。さらに,縄文時代のダイズ属種子は4つの形態に分類され,野生種の利用から栽培化の過程で形態的な変化が生じ,複数の品種に分化した可能性を指摘した。
[原著]
脱穀・風選実験と現生果実の形態比較に基づくアワ土器圧痕の母集団の推定 PDF
小畑弘己, p43-54
日本・朝鮮半島・中国の新石器時代から青銅器時代の土器圧痕として検出される雑穀(アワ)資料の中には,野生種のエノコログサ属に似た,アワよりも細長い果実が含まれている。このような果実はアワ畠に生えていたエノコログサ属の雑草の果実が,アワ穂の収穫時に紛れ込んだものと考えられてきた。しかし,現生アワ穂の脱穀実験の結果,野生種のエノコログサ属型の細長い有粰果はアワの同じ穂内の果実の形態変異の一部であり,頴果が未成熟であることが多いこと,脱穀後の試料の中にもこのタイプの有粰果が含まれることが明らかになった。現生アワとエノコログサ属果実の形態比較に基づいて,これまで野生種のエノコログサ属と同定された圧痕を再検討した結果,その大部分がアワに同定された。脱穀・風選別実験後の,頴果を含む果実の状態とその産出割合に基づくと,アワ圧痕の母集団が脱穀後の生産物である可能性を示唆していた。
[短報]
石川県三引遺跡および福井県鳥浜貝塚出土の縄文時代漆塗櫛の年代 PDF
工藤雄一郎・四柳嘉章, p55-58
Urushi-lacquered combs are among the most important artifacts characterizing the urushi lacquer culture of the Jomon period in Japan. We conducted radiocarbon dating of two lacquered combs of the Jomon period, one excavated from the Mibiki site of the late phase of the initial Jomon period and another excavated from the Torihama shell midden of the early Jomon period. Their dates were 6290 ± 30 14C BP (ca. 7200 cal BP) and 5310 ± 30 14C BP (ca. 6100 cal BP), respectively. These results show the comb from the Mibiki site to be one of the oldest remains of urushi-lacquered artifacts of the Jomon period and that from the Torihama shell midden to be of the late phase of the early Jomon period.