植生史研究 第21巻第1号(2012年3月発行)
[巻頭写真]
縄文時代早期の佐賀県佐賀市東名遺跡から出土した編組製品の復元実験
鈴木三男・西田巌・佐々木由香・能城修一・小林和貴, PDF
[原著]
日本と朝鮮半島の巨樹 -樹種および巨樹にまつわる伝承の比較
佐藤征弥・阿部梨沙・乃村亜由美・姜憲・瀬田勝哉, p3-19, PDF
明治時代末の天然記念物保護の機運の高まり受け,大正2年(1913)に刊行された『大日本老樹名木誌』は,各地の著名な樹1500本について,所在地, 地上五尺の幹周囲,樹高,樹齢,伝説が記されており,日本の巨樹研究において極めて重要な資料である。また,その6年後の大正8年(1919)には朝鮮総 督府から『朝鮮巨樹老樹名木誌』が刊行され,朝鮮半島の3168 本の樹について同様のデータが記されている。本研究は,この二つの資料を基に,記載されている樹種や樹の所有者(所在地),伝承を整理し比較した。樹種で いえば,掲載本数の多い順に『大日本老樹名木誌』ではマツ,スギ,クスノキ,ケヤキ,サクラ,イチョウと続き,『朝鮮巨樹老樹名木誌』ではケヤキ,エノ キ・ムクエノキ,イチョウ,チョウセンアカマツ(アカマツのこと),ヤチダモ,エンジュと続く。樹の所有は日本では,神社や寺院に植えられている割合が高 い。一方,朝鮮半島では公有地,地域共同体である「里」や「洞」が圧倒的に多い。これは,地域で樹を祭る習慣があるためである。樹にまつわる伝承をその内 容に基づいて分類した結果,樹種による違いが明確に表れた。それぞれの樹種が有する形態的,生理的特徴に起因すると考えられるものも多い。また,日本と朝 鮮半島を比較すると,共通点もみられるが,むしろ異なる部分が目立ち,歴史,宗教,文化の違いが反映されている。
北海道利尻島姫沼ボーリングコアの最終氷期最寒冷期以降の大型植物化石群
紺野美樹・百原新・近藤玲介・重野聖之・宮入陽介・佐藤雅彦・五十嵐八枝子・沖津進, p21-28, PDF
北海道利尻島姫沼南岸で 採集したボーリングコアの大型植物化石を分析し,最終氷期最寒冷期以降の姫沼の古環境と植生の変遷を明らかにした。最終氷期最寒冷期の 16,964±48-15,917±85 yrs BPまでの姫沼とその周辺には,乾燥・寒冷な気候と火山活動がもたらした貧弱な土壌環境下でエゾノヒメクラマゴケが生育するハイマツの疎林が分布してい た。約15,917±85 yrs BP以降には沈水植物のシャジクモ科,ヒメミズニラ,バイカモが生育する湖沼になった。 14,265±44 yrs BPまでにはナナカマド属やミヤマハンノキが湖沼周辺のハイマツ群落に混生するようになり,それ以降には湖水面の上昇と拡大によって湖岸から植物化石がも たらされなくなった。
弥生時代から古墳時代の関東地方におけるイチイガシの木材資源利用
能城修一・佐々木由香・鈴木三男・村上由美子, p29-40, PDF
近年,コナラ属アカガシ亜属のうちイチイガシの同定が木材組織から可能となり,それをもとに,関東地方で弥生時代中期から古墳時代の木製品を多数産出した 7遺跡を対象として,アカガシ亜属の木材を再検討した。その結果,この時期を通して鋤鍬にはイチイガシが選択的に利用されていた。海岸に近い神奈川県池子 遺跡と,千葉県常代遺跡,国府関遺跡,五所四反田遺跡では,鋤鍬の完成品だけでなく,未成品や原材でもイチイガシとイチイガシの可能性の高い樹種が 50-70%を占めており,遺跡周辺で原材の採取から加工までが行われていたと想定された。それに対し,内陸部の埼玉県小敷田遺跡と群馬県新保遺跡ではイ チイガシの利用比率が下がり,イチイガシ以外のアカガシ亜属やコナラ属クヌギ節を鋤鍬に用いる傾向が認められた。もっとも内陸部の新保遺跡では,鋤鍬の完 成品だけでなく未成品や原材でもイチイガシ以外のアカガシ亜属とクヌギ節がほとんどを占め,イチイガシの鋤鍬は完成品と未成品が少数しか出土せず,これら は関東地方南部から移入されたと想定された。鋤鍬以外の木製品では,神奈川県や千葉県の遺跡でもアカガシ亜属以外の樹種が70%以上を占め,アカガシ亜属 の中でもイチイガシの比率は低い。このように,イチイガシが鋤鍬に限定して選択されていた理由は,イチイガシの木材がアカガシ亜属の他の樹種の木材に比べ て柔軟性があり,軽いわりに強度があるためであると想定された。
[雑録]
渡辺正巳:報告 -第33回日本植生史学会談話会, PDF
秋山綾子:報告 -第33回日本植生史学会談話会, PDF
[事務局報告], PDF
[書評], PDF