【18巻1号】2010

植生史研究 第18巻第1号(2010年6月発行)

[巻頭写真]
三木茂博士収集植物化石および現生植物標本

塚腰実, PDF

[原著]
イネ科植物の泡状細胞珪酸体形状の多様性と記載用語の提案
本村浩之・米倉浩司・近藤錬三, p3-12, PDF

イネ科植物6亜科10連36属67種1亜種3変種18品種・栽培変種における泡状細胞珪酸体を光学顕微鏡と走査型電子顕微鏡を用い網羅的に観察した。泡状 細胞珪酸体は多面体で6つの面(上面,下面,2つの端面および2つの側面)で構成されていた。端面形状は,非対称形でなんら幾何学的形状を示さないものか ら,左右対称で,三角形,逆扇形,楕円形,長方形,正方形や円形状などの幾何学的な形状を示すものまであることに加え,端面上面部,端面下面部および端面 側面部と下面部の境界付近にも形状の変化があり,端面は他の面と比べて著しい多様性を示した。端面上面部と端面下面部を,その形状の差異に基づき5つの型 (丸みを帯びる,角張る,先太になる,凹む,突起がある)と6つの型(丸みを帯びる,尖状,平坦,凹部が1つ,凹部が2つ,凹部が3つ)にそれぞれ区別し た。泡状細胞珪酸体表面には模様と突起が観察された。模様は,下面表面だけに観察され,その形状の差異に基づき2つの主要な型(網目と縞)と2つの亜型 (菱形状と格子)に区別した。突起には6つの型(釘の頭形,台形,棍棒,二股,2種類のいぼ)を認めた。この研究で提案した形状記載用語と既往の研究で用 いられていた記載用語との対応関係を一覧表にまとめ,その異同について論議した。

日本列島における現生デンプン粒標本と日本考古学研究への応用 -残存デンプン粒の形態分類をめざして
渋谷綾子, p13-27, PDF

残存デンプン分析は,遺跡土壌や遺物の表面からデンプン粒を検出し,過去の植生や人間の植物利用を解明する研究方法である。日本では近年本格的に取り組ま れており,遺跡から検出された残存デンプン粒を同定するため,現生標本の作製も進められている。本研究は,残存デンプン分析の世界的な研究動向と日本にお ける研究の実情を把握した上で,旧石器時代から弥生時代に利用されていた植物の種類を同定する上でその基礎となる現生植物のデンプン粒標本の形態を検討 し,遺跡間の比較を行うための方法論的な議論を行った。旧石器時代から弥生時代の代表的な可食植物とされる17種におけるデンプン粒を観察し分析したとこ ろ,サトイモ,ヤマノイモ,オニグルミ,ヒエ,イネ,キビ,アワのデンプン粒は他の植物より特徴的な形態をしており,コナラやクヌギなどの堅果類は形態上 類似していることが判明した。さらに,デンプン粒の外形と大きさに着目し形態を分類すると,従来の残存デンプン分析でしばしば提示されてきた遺跡内での植 物資源の利用モデルに対して,植物種の同定をより厳密に議論する必要があることが判明した。本研究の形態分類法は既存の考古学研究で証明が困難であった複 数種類の植物加工を検証する方法として有効であり,現生標本との形態上の比較から残存デンプン粒の植物種を絞りこむことが可能であるため,遺跡での植物性 食料の利用活動を検証する手段の1つとなり得る。

[書評]
植物化石-5 億年の記憶
能城修一, PDF

高等植物分類表
鈴木三男, PDF

[報告]
-第29回日本植生史学会談話会
上中央子, PDF

-第30回日本植生史学会談話会
箱﨑真隆, PDF

-第30回日本植生史学会談話会
吉田真弥, PDF

[事務局報告]
PDF