第5回奨励賞

日本植生史学会表彰規程(2002年11月17日制定、2004年11月28日改訂)に則って、奨励賞審査委員会(鈴木三男委員長、湯本貴和・山本直人・辻誠一郎・守田益宗・西田治文・南木睦彦各委員)を設置し、審査を行なった。その結果、第5回奨励賞は以下の1件の論文に決定した。

受賞論文
東京都下宅部遺跡の大型植物遺体からみた縄文時代後半期の植物資源利用
佐々木由香・工藤雄一郎・百原新, 植生史研究, 第15巻第1号 (2007), p. 35-50.

第5回奨励賞受賞者推薦理由
(日本植生史学会奨励賞審査委員会委員長 鈴木三男)

本論文は、下宅部遺跡という情報量の多い遺跡に着目し、遺跡内での種実遺体群の産出状況を克明に捉え、木材など他の資料を総合して、縄文時代における複合的・重層的な植物資源利用の具体像と生活空間における場所性という二つの要素を明確に描きだしている。これまでの種実遺体群の調査・研究が、人の活動から距離をおいた、資料群の統計処理に終始していたのと比較して、発掘調査に即しながら膨大な資料群を整理するという、きわめて地道な作業の蓄積によって得られた成果は大きい。本論文は、今後の低地遺跡における大型植物遺体調査手法に指針を与えるだけでなく、植生史研究および植物考古学にとって新たな領域を開拓した点で高く評価できる。