第7回奨励賞

日本植生史学会表彰規程(2002年11月17日制定、2009年11月8日改正)に則って、奨励賞審査委員会(高原光委員長、南木睦彦、西田治文、植村和彦、鈴木三男、松下まり子、百原 新、能城修一各委員)を設置し、審査を行った。その結果、総合研究大学院大学学融合推進センター特別研究員 那須浩郎氏、東北大学大学院生命科学研究科 箱﨑真隆氏の2名を、第7回日本植生史学会奨励賞受賞者に決定した。

第7回日本植生史学会奨励賞受賞理由(審査委員長 高原光)

総合研究大学院大学学融合推進センター特別研究員 那須浩郎氏
那須浩郎氏は、これまで大型植物遺体の分析を用いて、テーマの異なるいくつかの研究を実施してきた。学部学生から修士課程では、最終氷期の埋没林から当時の針葉樹林の空間構造と立地環境の復元研究に取り組み、従来注目されてこなかった蘚苔類に着目し、その生態から当時の針葉樹林の立地環境を復元した。博士過程ではまず、北海道東部沿岸の地震性海水準変動を、大型植物遺体により復元研究した。さらに、遺跡を対象として、稲作の起源地域である中国長江流域の城頭山遺跡で、アワの栽培/野生の同定基準を確立し、城頭山遺跡では稲作だけでなく雑穀農耕も併せ持った多角的な農耕が展開されていたことを明らかにした。近年は、遺跡に関する研究を重視し、日本国内だけでなく、西アジアや中南米の遺跡にもフィールドを広げて、農耕や文明と環境変化との相互関係の研究を開始している。今後さらに、大型植物遺体分析から植生史学の発展に貢献できる若手研究者であることを認め、平成22年度日本植生史学会奨励賞を授与する。

 東北大学大学院生命科学研究科 箱﨑真隆氏
箱﨑真隆氏は山口県宇生賀盆地のスギ埋没林の年輪解析によって、低湿地に1000年間以上スギ林が成立したことを明らかにし、また、福島県猪苗代湖鬼沼のサワラ埋没林では、木材化石と花粉化石を用いて時空間的な植生変遷の復元を行なった。現在、それらの研究を基礎とし、青森県東通村猿ヶ森のヒバ埋没林において、年輪解析により埋没林内における樹木の更新と埋没林形成過程の復元に取り組んでいる。さらに、北東北の縄文時代から近世までの遺跡出土ヒバ材の年輪解析にも取り組み、既に複数の遺跡と猿ヶ森の埋没ヒバ材とのクロスデーティングにも成功している。この研究から得られるヒバの樹木年輪標準暦は今後の植生史学および古気候学、さらには考古学、歴史学、文化財科学等の諸分野にとって極めて有効なデータになると大いに期待される。また、学部卒業時以来、学会大会等での発表を欠かさず行っており、日本生態学会2008年度大会(2009年3月)においては「第56回日本生態学会大会ポスター賞優秀賞(遷移・更新分野)」を受賞している。以上のとおり、箱﨑真隆氏の研究内容と研究姿勢は、植生史学の将来の発展に大いに貢献することを認め、平成22年度日本植生史学会奨励賞を授与する。