日本植生史学会表彰規定(2002年11月17日制定)に則って、学会賞および奨励賞の審査委員会を設置し、審査を行った。その結果、第2回奨励賞に以下の1件の論文を推薦することにした。
受賞論文
東京都中央区八丁堀三丁目跡より出土した江戸時代の木棺の形態と樹種
鈴木伸哉・能城修一, 植生史研究, 第12巻第2号 (2004), p. 75-86.
第2回奨励賞受賞者推薦理由
(日本植生史学会奨励賞審査委員会委員長 辻 誠一郎)
本論文は、17世紀前半を主体とする江戸の一般都市住民層の墓域から出土した木棺について、樹種の同定および木取り・厚さの計測を行い、当時の身分・階 層差の影響、および森林資源枯渇の影響を評価したものである。
本論文の研究の手法は、遺跡から出土する木製遺物の樹種同定と木取り・形状の観察という、これまでの調査・研究によって確立されてきた方法を基礎としている。それにもかかわらず、身分・階級差の影響や森林資源の枯渇の影響についての評価が明確であり、論文としての完成度が高いのは、墓域から出土での 成果との議論が密接に展開し、無理のない説得性のある議論が展開されているためである。近世は文献も多いため、生産・消費・流通の様相がよく分かっていると誤解されがちだが、とりわけ一般住民層については分かっていないことの方が未だ多い。そうした中で本研究は、考古学・歴史学をカバーする植生史研究 の領域開拓を果たしており、近世以前への研究をも展望させる。
以上のように本論文は、若手研究者の研究を奨励することを主旨とする奨励賞に値するものと評価でき、受賞論文に推薦する。