第1回論文賞

日本植生史学会表彰規程(2002年11月17日制定、2009年11月8日改正)に則って、第1回論文賞審査委員会(南木睦彦委員長、植村和彦、鈴木三男、松下まり子、高原 光、百原 新、能城修一各委員)を設置し、審査を行った。その結果、第1回日本植生史学会論文賞は、第17巻第1号掲載の工藤ほか論文と第18巻第1号掲載の渋谷論文の2編の論文に決定した。なお、規程では授賞は「原則として2件」とされている。両論文のいずれを推薦するかについての審査委員の評価は二分されていたが、両論文ともに十分に論文賞に値するものと考え、2論文に授与と決定した。

栃木県小山市寺野東遺跡から出土した縄文時代後・晩期の木組遺構の高精度年代測定
工藤雄一郎・小林謙一・江原英・中村俊夫, 植生史研究, 第17巻第1号 (2009), p. 13-25

本論文は、15基と多数の木組遺構が検出されている寺野東遺跡において、木組遺構の年代的位置づけを明確化することを目的として、詳細な14C年代測定を実施して遺構の年代的位置づけを明確にしたものである。縄文時代の年代測定においてウイグルマッチングを行いより高度な遺構木材の年代決定を試みた点に、独創性が見られる。高精度の年代測定に基づいた編年は、土器型式や遺構の年代・特性などを高い分解能で明らかにし、各種考察の基礎となる。本論文ではそうした成果が示されている。今後の高精度年代測定の可能性を示した点で高く評価でき、論文賞にふさわしいものである。

日本列島における現生デンプン粒標本と日本考古学研究への応用 -残存デンプン粒の形態分類をめざして
渋谷綾子, 植生史研究, 第18巻第1号 (2010), p. 13-27

本論文は、残存デンプン分析という、これまでの日本の植生史研究ではあまり取り組まれてこなかった手法に関して、その基礎として現生植物のデンプン粒標本の形態を検討し、遺跡間の比較を行うための方法論的な議論を行って、新しい方法論を吟味・確立した点で高く評価できる。本論文の形態分類法を用いると残存デンプン粒の植物種を絞りこむことが可能である。そこで、これまでその利用実態があいまいであった根菜類の利用の解明を可能にするなど、過去の植生や人の植物利用を解明するための有効な手段として、今後の発展が大いに期待できる。以上の点で本論文は論文賞にふさわしいものである。