第1回奨励賞

日本植生史学会表彰規定(2002年11月17日制定)に則って、学会賞および奨励賞の審査委員会を設置し、審査を行った。その結果、第1回奨励賞に以下の1件の論文を推薦することにした。

受賞論文
小笠原諸島母島石門地域に残存する伐根から推定されるオガサワラグワの生態的特徴
吉田圭一郎・岡秀一, 植生史研究, 第9巻第1号 (2000),  p. 21-28.

第1回奨励賞推薦理由
(日本植生史学会学会賞・奨励賞審査委員会委員長 辻誠一郎)

本論文は、小笠原諸島母島石門地域に現存する湿性高木林と、明治政府による本格的な開拓の影響を受けて伐採されていったオガサワラグワの同定 にもとづく過去の復元植生を比較し、植生構造の歴史的な変化を具体的に明らかにしている。
この論文の大きな特徴は、これまでの埋没林研究と同様の手法によって、残存する伐根を材料にすることによって過去のオガサワラグワの分布様式や構造を復 元し、伐採前のオガサワラグワの古生態を導き出すことに成功していることである。絶滅危惧種に指定されているため、現在の植生からオガサワラグワの生態 を調べることはできないので、伐根に着目した調査はきわめて効果的であったといえる。十年から百年オーダで起こっている植生の構造変化を捉える可能性を 示したことも大きな成果である。
以上のように、本論文は、若手研究者の研究を奨励することを主旨とする奨励賞に値するものと評価でき、受賞者に推薦する。