第5回学会賞

日本植生史学会表彰規程に則って、第5回学会賞審査委員会(能城修一委員長、紀藤典夫委員、佐々木由香委員)を設置し、審査を行った。その結果、審査委員会は第5回日本植生史学会学会賞を、西田治文氏、守田益宗氏の2氏に決定した。

受賞者

西田治文

授賞理由

西田氏は、地球史における植物の多様性の論理を解明するために、主に中生代の裸子植物・被子植物化石の研究を長年にわたって続けてきた。その成果は、『植物のたどってきた道』(日本放送出版協会)と『化石の植物学 時空を旅する自然史』(東京大学出版会)の2冊の著書に結実している。前者は、現在の地球上に存在する多様な植物が地球史のなかでどのように進化してきたのかを平易にまとめたもので、マイナーと言われる古植物学・植物化石研究が植物の多様性を解明するうえで、重要であることを広く知らしめた。後者は、難解とされてきた古植物学・植物化石研究の面白さを具体的に解説し、古生物学・生物学以外の分野で古植物学・植物化石研究が果たしている大きな役割を説いたものである。植生史研究が第四紀における人類との関係性を対象とするようになりつつあるなかで、西田氏は、植生史研究の主題は地球史における植物多様性の歴史であり、その歴史を解明することと説いており、植生史研究の羅針盤のような著作であると評価される。上記の著作を裏付ける論文は数多く、裸子植物・被子植物の進化、植物の多様化に関するフィールドワークと化石観察法の技術革新は国際的に高く評価されてきた。西田氏は、自然史学会連合役員や生物多様性JAPAN事務局、日本学術会議の会員などを歴任されると同時に、長く日本植生史学会の評議員や事務局長等を務めて来られ、学会誌の編集や行事、渉外など学会の活動の活性化に努めてこられた。中央大学では、IPC/IOPC2012や植生史談話会などを積極的に開催され、植生史研究、古植物学、植物化石研究の普及に努力された。日本植生史学会の活動に多様化をもたらす、こうした多岐にわたる功績から、西田氏に日本植生史学会学会賞を授与することにした。

 

受賞者

守田益宗

授賞理由

守田氏は、花粉分析を用いた第四紀の植生史研究を発展させ、植生史学会の学会活動と教育活動に大きな貢献をした。東北地方から北海道にかけての亜高山帯の湿原堆積物の研究を精力的に行い、最終氷期以降の亜高山針葉樹林帯の植生発達史、特に偽高山帯の発達過程の解明に大きく貢献し、日本の森林生態学研究に影響を与えた。それら一連の研究や、北海道東部での植生史研究は、表層花粉と植生との詳細な比較に基づくものであり、亜高山帯や非森林域での花粉のタフォノミー研究の重要性の認識につながった。その後、山形県白鷹(しらたか)湖、岐阜県大湫(おおくて)盆地、愛媛県宇和盆地でロングコアの花粉分析を精力的に行い、第四紀後半の氷期・間氷期サイクルに伴う植生変遷を詳細に明らかにした。ニレ属-ケヤキ属などの花粉形態学的研究の成果も多数公表しており、バイカル湖や中国長江流域、チベット南部などの海外の植生史研究にも貢献した。日本植生史学会の学会活動では、長年、評議員や事務局長等を歴任し、2011年度には会長に就任、学会運営に貢献した。さらに、岡山理科大学で行われている花粉分析の基礎についての実習講座を、植生史談話会として2回開催したほか、「植生史研究」に花粉分析の方法についての解説を公表するなど、会員の花粉分析技術の向上に貢献した。これらの植生史研究および日本植生史学会における多岐にわたる功績から、守田氏に日本植生史学会学会賞を授与することにした。