【30巻1号】2022

植生史研究 第30巻第1号(2022年3月発行)

[巻頭写真]
渡島駒ヶ岳1929年噴火以前の植生の化石林
紀藤典夫・石崎海里・ 金澤智也・粕加屋風太・川村雪乃・圓子海斗・森荘太郎・仲村翔太・樽井 悠
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[解説]
特集「関東平野の低湿地遺跡における古環境研究」
工藤雄一郎, p.3-4
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[原著]
関東平野中央部における縄文時代早期から晩期の植生と人為生態系の形成
吉川昌伸・能城修一・工藤雄一郎・佐々木由香・森 将志・鈴木 茂, p.5-22
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関東平野中央部にある縄文時代早期から晩期の4遺跡において,詳細な放射性炭素年代の測定と花粉化石群の解析を行い,森林資源管理や植物の栽培が集落の周辺でいつ頃から行われて人為生態系が形成されたのかについて検討した。植物化石群の解析によると,関東平野中央部の4遺跡の周辺では,落葉広葉樹が縄文時代早期から後期において優占しており,常緑広葉樹は海岸沿いでは混生していたが,海進が及んでいない内陸部では後期後葉以降に拡大した。2遺跡において,縄文時代早期後葉にクリ花粉が優勢または比較的多く産出し,加えて移入植物のウルシ花粉やヒョウタン種子が出土した。こうした結果から,関東平野中央部では縄文時代早期後葉の約8000 cal BP 以降にクリ林が人為的に形成され,ウルシ林は約7650 cal BP までには作られて維持管理されていたことが示された。こうしたクリ林とウルシ林は縄文時代前期から晩期にも関東平野中央部では継続して形成され維持されていた。

[原著]
千葉県道免き谷津遺跡・雷下遺跡の出土木材からみた縄文時代早期および後・晩期の森林植生と森林資源の管理と利用
能城修一, p.23-34
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千葉県市川市の道免き谷津遺跡と雷下遺跡において,出土木材から縄文時代早期と後・晩期の森林組成を復原し,森林資源の管理と利用を検討した。縄文時代早期後葉の雷下遺跡では,自然木でコナラ属コナラ節とエノキ属,ムクノキが優占し,それらは木製品類でも多用されていた。木製品類の素材の直径は平均10 cm 以下であったが,この3分類群とコナラ属クヌギ節には直径10 ~ 53 cm の素材も使われていた。この4分類群の木材は縄文時代前期以降に多用されたクリの木材より重硬であり,縄文時代早期後葉には樹木の伐採技術と木材の加工技術が確立していたことを示していた。縄文時代後・晩期の道免き谷津遺跡では,ハンノキ属ハンノキ節とトネリコ属シオジ節が低地林で優占し,台地斜面ではコナラ属コナラ節が優占した。晩期の木組遺構にはクリが多用され,さらに主要な枠材に利用されていた。この低地林は,中川低地の西側で見いだされた埼玉県赤山陣屋跡遺跡の低地林と組成がよく似ており,関東地方の中央部の開析谷でこうした低地林がこの時期に広く成立したことを示していた。また両遺跡ともクリ材を単に多用するだけでなく,主要な水場遺構や構造材に選択的に用いていた。道免き谷津遺跡の木組遺構の構築材も,同時期の他の遺跡と同様に人為的なクリ林に由来すると考えられ,雷下遺跡での木材と花粉の分析結果から,そうしたクリ林が早期後葉には成立していた可能性を指摘した。

[雑録]
報告―第49 回日本植生史学会談話会
林 尚輝, p.35-36
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[事務局報告]
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