【10巻1号】2001

植生史研究 第10巻第1号(2001年6月発行)

[巻頭写真]
ネパール,カトマンズ盆地より産出した最終氷期の植物化石
大井信夫, PDF

[総説]
集団遺伝学知見から考えられるわが国の針葉樹の分布変遷
津村義彦, p3-16, PDF

多くの針葉樹でアロザイム分析を用いて種内の遺伝的多様性および集団分化の研究が行われてきた。その後,DNAレベルでも調査が始められ,オルガネラ DNAの変異を利用して集団の系統関係も報告されるようになってきた。これらのデータから過去における祖先集団がどこに存在し,気候変動とともにどの様な 経路で分布拡大し変遷していったかをある程度推定することが可能である。わが国では主にアロザイム分析を用いて10種程度の針葉樹について遺伝的多様性お よび集団分化の研究が行われている。分布変遷を明瞭に見ることができるのは遺伝変異性に地理的勾配ができている場合である。ハイマツや,クロマツ,ウラジ ロモミ,モミ,ヒノキでは遺伝変異に明瞭な地理的勾配が見られるため,これらの分布変遷について議論する。また地理的な勾配ができる要因を考察し,DNA の解析技術やゲノム研究の進展にともなった針葉樹の分布変遷研究の将来展望についても述べる。

[原著]
沖縄県北谷町伊礼原C遺跡の縄文時代前期相当期の大型植物遺体群
大松志伸・辻誠一郎, p17-32, PDF

沖縄県北谷町伊礼原C遺跡の縄文時代前期相当期の大型植物遺体群を記載した。伊礼原C遺跡では,曽畑式土器が含まれる礫の間や落ち込みに果実や貝が 塚をなし,それに土器や骨器が伴っていた。同定に至った大型植物遺体は56分類群,同定に至っていないものは17分類群だった。多産するのは大半がシイ属 と考えられるブナ科果実とアダンである。この他,クワ属,カジノキ,アカメガシワ属,ホルトノキ,エゴノキ,チシャノキ属,およびホタルイ属,イバラモ 属,スズメウリ属などが産出した。ブナ科果実が他の分類群に比して多いことから,ブナ科果実が選択的に利用され廃棄されたと考えられ,オキナワウラジロガ シが多産した縄文時代後期相当期の前原遺跡の結果と考えあわせると,琉球列島でもブナ科果実が縄文時代において重要な食料資源であった可能性が高い。

室戸半島大野台の中期更新世間氷期植物化石群
松下まり子・百原新・兵頭政幸・佐藤祐司・田中眞吾・小倉博之, p33-44, PDF

室戸半島大野台(134°00’E, 33°26’N, 海抜高度40-50m)の海成段丘面下堆積物に含まれる花粉および大型植物化石群から,暖温帯に分布するマツ属,モミ,ツガ,トガサワラなどの針葉樹とク マシデ属,ケヤキ,ブナ属,ナラ類などの落葉広葉樹からなる森林が復元された。この堆積物は,イオウを含有することと,ハマゴウなどの海浜植物の化石が産 出することから海成とみなされ,段丘面高度分布と古地磁気層序対比から大阪層群のMa5海成粘土層の可能性が考えられた。同地域の完新世堆積物中の花粉群 から復元される植生は常緑広葉樹林であったが,この堆積物が堆積した時代には,同じ間氷期でもシイ属,カシ類などの分布拡大がみられなかった。これは,常 緑広葉樹林の成立を制限する冬の寒さなどの条件が間氷期によって異なっていたためと考えられる。

窓-まど 植物社会学から植生史学的研究に期待するもの-済州島の植生解析を例にして-, PDF

[書評]
植物のこころ
能城修一, PDF

日本の地形4 関東・伊豆小笠原
辻誠一郎, PDF

走査電子顕微鏡
能城修一, PDF