第1回学会賞

日本植生史学会表彰規定(2002年11月17日制定)に則って、学会賞および奨励賞の審査委員会を設置し、審査を行った。その結果、第1回学会賞に以下の1名の会員を推薦することにした。

受賞者
鈴木三男

推薦理由
(日本植生史学会学会賞・奨励賞審査委員会委員長 辻誠一郎)

鈴木三男氏は、日本植生史学会の前身である植生史研究会の創設に発起人の一人として貢献され、日本植生史学会への移行措置と組織整備において も中心的な役割を果たし、植生史学の発展に大きく貢献された。日本植生史学会は植生史学の発展と普及を目的としているので、これらの多大な貢献は植生史 学への貢献でもある。
植生史学における研究領域は幅広く、木材組織解剖学を基本にしながら、1970年代以降は主として第三紀の木材化石研究, 針葉樹の組織解剖学を、1980年代以降は遺跡から出土する木材遺体研究を展開してきた。とくに更新世・完新世の木材遺体研究は、木材遺体群から森林植 生を復元する方法を開拓するとともに、年輪年代学の応用による森林古生態学の開拓を促進し, この方面の若手研究者の育成に尽力した。また、植物化石のDNA研究の開拓を行い、この方面でも若手研究者の育成をはかってきた。研究成果は、植生史研 究をはじめとする学会誌のほか、遺跡の発掘調査報告書などに寄せられている。
教科書および普及書もあり、植物解剖学の普及では『植物解剖学入門(ポーラ・ルダル著、鈴木・田川訳)』(八坂書房)の訳書が、植物化石研究の総説では 「植物の分布変遷と多様化」『多様性の植物学(1)植物の世界(岩槻・加藤編)』(東京大学出版会)などがある。また、遺跡出土の木材遺体研究を中心に した単行本『日本人と木の文化』(八坂書房)はこれまでの研究成果を分かりやすく概説している。
鈴木三男氏は、以上のように研究業績ならびに教育・普及における業績は膨大で、現在も東北大学において若手研究者の育成に尽力しており、植生史学への貢 献は著しいものがある。よって論文・普及書など出版物を中心とした植生史学への貢献は学会賞に値するものと評価でき、受賞者に推薦する。