【24巻2号】2016

植生史研究 第24巻第2号(2016年9月発行)

[巻頭写真]
鳥浜貝塚の物語はつづく
鯵本眞友美

[原著]
福井県鳥浜貝塚から出土した大型植物遺体の14C年代測定-縄文時代草創期から前期の堆積物層序と土器型式の年代の再検討-
工藤雄一郎・網谷克彦・吉川純子・佐々木由香・鯵本眞友美・能城修一, p.43-57

本研究では1981~1983年に採取された鳥浜貝塚の堆積物試料から抽出した大型植物遺体を用いて体系的な14C 年代測定を行った。その結果,縄文時代前期の北白川下層II 式を含む層準(83T,6 ~ 31 層)は約5990~5655 cal BP,北白川下層Ib 式および羽島下層II 式を含む層準(83T,34 ~ 77 層)は約6500 ~ 6190 cal BP であった。縄文時代早期の押型文土器は三方火山灰層(鬱稜-隠岐火山灰層)の上下の遺物包含層でそれぞれ年代が得られ,上位(81L,38 ~ 41 層)で約9675 ~ 9535 cal BP,下位(81L,43 ~ 44 層)で約10,495 ~ 10,250 cal BP であった。縄文時代草創期に相当する堆積物では,多縄文土器包含層(81L,49 層)で約11,615 ~ 11,280 cal BP の年代が得られ,その下位の無遺物層(82T,38 ~ 41 層)で約14,200 ~ 13,150 cal BP の年代が得られた。縄文時代草創期から前期を通じて各層序の厳密な数値年代が得られ,また鳥浜貝塚出土の各土器型式との対応関係を提示できた点は,今後,花粉や種実遺体,木材遺体による研究から得られる古環境の変遷に関する情報と,鳥浜貝塚で行われた人類活動の具体的な内容とを対比していく上で極めて重要な成果である。

[原著]
福井県鳥浜貝塚から出土した縄文時代草創期および早期のクリ材の年代
工藤雄一郎・鈴木三男・能城修一・鯵本眞友美・網谷克彦, p.59-68

1965~1985年にかけて発掘調査が行われた福井県鳥浜貝塚では多数の木質遺物や自然木が出土し,1990年に行われた自然木の樹種に関する調査によって縄文時代草創期の爪形文・押圧文土器期に属する可能性があるクリ材が19点,縄文時代草創期の多縄文土器期に属するクリ材が38 点確認された。また,1996 年に行われた木製品・加工木の樹種同定では,縄文時代草創期に属するクリの加工木が8点確認された。鳥浜貝塚のクリ加工木が確実に縄文時代草創期に遡る資料だとすれば,遺跡出土炭化材を除いて最古のクリ材利用の事例となり,クリ自然木とともに正確な年代を明らかにすることは重要である。そこで本論文では3 点のクリ自然木および7 点のクリ加工木の14C年代測定を実施した。その結果,自然木はいずれも縄文時代草創期の12,740 ~ 11,835 cal BP であり,加工木は縄文時代草創期(12,035 ~ 11,250 cal BP)および早期後葉(7940 ~ 7675 cal BP)であることが明らかになった。

[原著]
福井県鳥浜貝塚周辺における縄文時代草創期から前期の植生史と植物利用
吉川昌伸・吉川純子・能城修一・工藤雄一郎・佐々木由香・鈴木三男・網谷克彦・鯵本眞友美, p.69-82

鳥浜貝塚における縄文時代草創期~前期の植物利用を明らかにするために,多くの層準で放射性炭素年代が得られた堆積物試料を用いて花粉分析と大型植物化石分析から植生分布を復元した。鳥浜貝塚の周辺の植生は6つの植生期に区分された。下位よりコナラ亜属とブナを主とする落葉広葉樹林期(約14,000 ~ 13,200 cal BP),ブナ林にスギが混生する時期(約11,600 cal BP),コナラ亜属林にクリが多数混生する時期(約11,500 ~ 8700 cal BP),スギ林の優占とエノキ属-ムクノキ属樹木の拡大期(約8700 ~ 7100 cal BP),アカガシ亜属樹木の拡大期(約7100 ~5700 cal BP),クリが優勢な時期(5700 cal BP 以降)である。クリは草創期末以降に利用され,早期前葉には周辺丘陵にクリを多く混生する落葉広葉樹林が形成された。ウルシ花粉は草創期の約13,200 cal BP,アサ花粉は約10,500 cal BP の早期前葉から出現し,それ以降に貝塚周辺に継続的に存在していた可能性がある。また,鳥浜貝塚周辺では,草創期~前期を通して有用植物のカヤやオニグルミ,ヒシ属などの利用が,早期前葉以降にはクリやウルシ,アサの利用が推測される。鳥浜貝塚周辺では早期末以降には照葉樹林が発達したことも加わって,有用植物の利用は時間の経過とともに多様になったと考えられる。

[雑録]
池田重人:報告-第41 回日本植生史学会談話会
赤司千恵:2016 年IWGP(パリ)参加記