植生史研究 第16巻第2号(2008年10月発行)
[巻頭写真]
ヨルダン,ワディ・アブ・トレイハ遺跡 -西アジア新石器時代の移牧拠点-
那須浩郎・本郷一美・藤井純夫, PDF
[原著]
三内丸山遺跡の土壌生成履歴 -植生環境,人の活動および黒ボク土層の関係-
佐瀬隆・細野衛・高地セリア好美, p37-47, PDF
三内丸山遺跡における土壌生成履歴を植生環境,人の活動そして土壌層相の関係から検討した。完新世初頭,タケ亜科(ササ属)を林床に伴うコナラ亜属を主と しブナなどを随伴する落葉広葉樹林のもとで褐色森林土層が生成したが,集落の出現(約5050年前)に先だつ縄文時代前期中葉以前に黒ボク土層の生成が開 始した。それは,人の活動により落葉広葉樹林が縮小し草原的環境が生まれたことに連動していた。集落の最も拡大した縄文時代中期には活発な人の活動に伴い 土壌層が撹乱されることもあったものの,「人の活動→森林破壊→草原的環境」の生業システムは生態系の一部として継続し,その下で黒ボク土層は途切れるこ となく現在まで累積した。この意味で,黒ボク土層は人がつくった土壌層ということができる。
古琵琶湖層群畑層から産出した前期更新世末の大型植物化石
南澤修・松本みどり・百原新・山川千代美, p49-55, PDF
滋賀県高島市畑に分布し,前期更新世末頃に堆積したと考えられている古琵琶湖層群畑層(約74万年前)から大型植物化石を採取し,古植生ならび に古環境を考察した。落葉広葉樹17科20属23分類群,草本16科18属27分類群の主に種実類からなる大型植物化石群集を得た。針葉樹や常緑広葉樹は 見られず,ハンノキの産出個数が全個数の36.7%と最も多かった。アゼスゲ節とシバスゲ節を含むスゲ属,ヒメジソ,エゴノキ属,キイチゴ属が比較的多 かった。産出した分類群は1分類群を除いて現生種である。日本からの絶滅種として,サイクロカリア属の化石が見つかり,古琵琶湖層群での最も新しい層準か らの産出になった。植物化石群包含層の岩相が塊状無葉理の有機質粘土層であることから,この植物化石群は河川の後背湿地で堆積し,比較的原地性が高く,堆 積の場にはヒシ属などの水生植物とハンノキの湿地林が分布し,その周囲には落葉広葉樹が分布していたと考えられる。
東京都中央区日本橋一丁目遺跡出土木材からみた江戸の町屋における土木・建築用材の変遷とその背景
鈴木伸哉・能城修一, p57-72, PDF
京都中央区日本橋一丁目遺跡から出土した江戸時代初期から近代にいたる遺構構築材の樹種を同定し,江戸の町屋における土木・建築用材の変遷と,そこから類 推される木材利用の様相を検討した。土蔵跡17基,穴蔵23基,下水木樋・枝樋86基,井戸5基の部材1934点の樹種を検討した。その用材には江戸時代 初期から幕末・近代にかけて変遷が認められ,とくに17世紀中葉-後葉と18世紀中葉-後葉に顕著であった。17世紀中葉以前には,下水木樋・枝樋にサワ ラを中心とする様々な針葉樹と広葉樹が,また穴蔵には多様な針葉樹が用いられ,多元的で変異に富んだ木材の生産・流通や,都市建設と木材需要の急増による 各地からの多様な木材の搬入を反映していた。17世紀中葉以後には,下水木樋・枝樋にはアカマツを主体とする様々な針葉樹が用いられ,穴蔵には大径のアス ナロ(ヒバ)が多用されるようになり,土蔵の基礎部分には,アカマツ,クリ,スギ,ツガ属や,様々な転用材が用いられた。こ れは木材生産・流通網の整備による,用途に応じた用材選択の確立と,転用材を用いた経費削減を反映していた。18世紀後葉以降になると,江戸近郊の植林材 の生産・流通の拡大を反映し,下水木樋・枝樋,穴蔵,土蔵にはヒノキ科の針葉樹の減少と,アカマツ,スギ,カラマツ属の利用の拡大が認められた。こうした 変遷の背景には,都市人口の増加と,明暦の大火(1657年)をはじめとする火災の影響が推定された。
[雑録]
報告 -第12回国際花粉学会議(IPC-XII)・第8回国際古植物学会議(IOPC-VIII)合同大会
百原新, PDF
報告 -第27回日本植生史学会談話会 -考古学の視点から-
三浦恵, PDF
報告 -第27回日本植生史学会談話会
田中孝尚, PDF
[事務局報告]
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